日本語の読解の難しさは言うまでもないことであり、第一言語習 得・認知はもとより、第二言語習得においても最も多くの研究がな されている (Chikamatsu, in press; Matsunaga, 1999)。しかしな がら、実際の上級日本語教育がこれらの研究結果を反映していると は必ずしも言えず、指導書や教材の中には印欧語の読解研究結果を そのまま日本語に当てはめたようなものさえ見られる。また、内容 に関する既知情報を引き出させる前作業も多くの教科書に見られる が、その利用の仕方や教材の選択法が習得研究上必ずしも効果的と は思えないものも少なくない。
本発表では、まず、第一言語・第二言語における読解研究で明ら かにされている日本語の認知プロセスと習得について簡単に概要を 述べる。そして、上級読解力の促進に特に必要な技能・項目につい て説明し、これらの教え方を具体例を用いて紹介する。ここで主に 取り上げるのは日本語の語彙、特に漢語の認知力を伸ばすための 様々な練習活動、構造が複雑な長文の分析の仕方、文章構造スキー マ・既知知識スキーマの効果的な使い方と読み物の選択方法等であ る。例えば、語彙知識と読解力との間には強い相関関係があり、語 彙認知速度は読みの速度に大きく影響する。従って、学習者は複雑 な字形を瞬時に区別し発音を引き出せなければならない。そのた め、筆者の大学では、過去二年間空書や字形や語彙の発音ゲームを 行い、漢語の字形や音に対する意識を高め、語彙の認知速度を上げ る試みを行っている。